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ゆうれいかしや

ゆうれい貸屋

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1950(昭和25)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,320 字 · 42 页

青空文庫

「へんにぞくぞくするじゃあねえか、それになんだか、ひどく陰気な晩だぜ、まだ夜明けにゃまがあるのかな」

独り言をぶつぶつ云っていたが、そのときかなりけぶなことが起った。寝ころんでいる弥六の前方、剥げちょろけの壁のところが、ぼうと仄かに明るんで来た。ごくかすかに、青白くおぼろげに明るんで来たのである。そしてその薄い光暈のあいから、

「う……ら……め……し……や……なあ」

こういう、あわアれな声が聞えた。弥六は寝ころんだまま、そっちを見ていた、隣りは鉄造というぼて振で、夜中になると女房がうなされるとみえて、よく妙な呻きごえをあげる。お勘といってもう三十八になり、脂っけのぬけた、ひすばったような女房であるが、またその女房がうなされたのかと思った。……するとこんどはまえよりもはっきりと、やっぱりひどく哀れな声でこう云うのが聞えた。

「うウら……めエしや……なア」

そしてさらにけぶなことには、壁のところの明るみが少しずつ強くなり、やがてぼんやりと一人の女の姿が見えてきた。

「なんでえこれあ、妙な者が出て来やがったが、夢かな」

「あアら、うらめしや……くちおしや……なア」