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グッド・バイ

グッド・バイ

太宰 治

「朝日評論」1948(昭和23)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,818 字 · 30 页

青空文庫

部屋代も要らない。

女に対して常に自信満々の田島ともあろう者が、こんな乱暴な恥知らずの、エゲツない攻略の仕方を考えつくとは、よっぽど、かれ、どうかしている。あまりに、キヌ子にむだ使いされたので、狂うような気持になっているのかも知れない。色慾のつつしむべきも、さる事ながら、人間あんまり金銭に意地汚くこだわり、モトを取る事ばかりあせっていても、これもまた、結果がどうもよくないようだ。

田島は、キヌ子を憎むあまりに、ほとんど人間ばなれのしたケチな卑しい計画を立て、果して、死ぬほどの大難に逢うに到った。

夕方、田島は、世田谷のキヌ子のアパートを捜し当てた。古い木造の陰気くさい二階建のアパートである。キヌ子の部屋は、階段をのぼってすぐ突当りにあった。

ノックする。

「だれ?」

中から、れいの鴉声。

ドアをあけて、田島はおどろき、立ちすくむ。

乱雑。悪臭。

ああ、荒涼。四畳半。その畳の表は真黒く光り、波の如く高低があり、縁なんてその痕跡をさえとどめていない。部屋一ぱいに、れいのかつぎの商売道具らしい石油かんやら、りんご箱やら、一升ビンやら、何だか風呂敷に包んだものやら、鳥かごのようなものやら、紙くずやら、ほとんど足の踏み場も無いくらいに、ぬらついて散らばっている。