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グッド・バイ

グッド・バイ

太宰 治

「朝日評論」1948(昭和23)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,818 字 · 30 页

青空文庫

ああ、そう、いいものがある。お部屋へあがったらどう? 割に安いのよ。」

どうやら商売の話らしい。もうけ口なら、部屋の汚なさなど問題でない。田島は、靴を脱ぎ、畳の比較的無難なところを選んで、外套のままあぐらをかいて坐る。

「あなた、カラスミなんか、好きでしょう? 酒飲みだから。」

「大好物だ。ここにあるのかい? ごちそうになろう。」

「冗談じゃない。お出しなさい。」

キヌ子は、おくめんも無く、右の手のひらを田島の鼻先に突き出す。

田島は、うんざりしたように口をゆがめて、

「君のする事なす事を見ていると、まったく、人生がはかなくなるよ。その手は、ひっこめてくれ。カラスミなんて、要らねえや。あれは、馬が食うもんだ。」

「安くしてあげるったら、ばかねえ。おいしいのよ、本場ものだから。じたばたしないで、お出し。」

からだをゆすって、手のひらを引込めそうも無い。

不幸にして、田島は、カラスミが実に全く大好物、ウイスキイのさかなに、あれがあると、もう何も要らん。

「少し、もらおうか。」

田島はいまいましそうに、キヌ子の手のひらに、大きい紙幣を三枚、載せてやる。

「もう四枚。