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グッド・バイ

グッド・バイ

太宰 治

「朝日評論」1948(昭和23)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,818 字 · 30 页

青空文庫

名曲ならば、一日一ぱいでも聞いていたい。」

「あの曲は、何?」

「ショパン。」

でたらめ。

「へえ? 私は越後獅子かと思った。」

音痴同志のトンチンカンな会話。どうも、気持が浮き立たぬので、田島は、すばやく話頭を転ずる。

「君も、しかし、いままで誰かと恋愛した事は、あるだろうね。」

「ばからしい。あなたみたいな淫乱じゃありませんよ。」

「言葉をつつしんだら、どうだい。ゲスなやつだ。」

急に不快になって、さらにウイスキイをがぶりと飲む。こりゃ、もう駄目かも知れない。しかし、ここで敗退しては、色男としての名誉にかかわる。どうしても、ねばって成功しなければならぬ。

「恋愛と淫乱とは、根本的にちがいますよ。君は、なんにも知らんらしいね。教えてあげましょうかね。」

自分で言って、自分でそのいやらしい口調に寒気を覚えた。これは、いかん。少し時刻が早いけど、もう酔いつぶれた振りをして寝てしまおう。

「ああ、酔った。すきっぱらに飲んだので、ひどく酔った。ちょっとここへ寝かせてもらおうか。」

「だめよ!」

鴉声が蛮声に変った。

「ばかにしないで! 見えすいていますよ。泊りたかったら、五十万、いや百万円お出し。