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グッド・バイ

グッド・バイ

太宰 治

「朝日評論」1948(昭和23)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,818 字 · 30 页

青空文庫

しかし、この女(永井キヌ子という)のように、こんなに見事に変身できる女も珍らしい。

「さては、相当ため込んだね。いやに、りゅうとしてるじゃないか。」

「あら、いやだ。」

どうも、声が悪い。高貴性も何も、一ぺんに吹き飛ぶ。

「君に、たのみたい事があるのだがね。」

「あなたは、ケチで値切ってばかりいるから、……」

「いや、商売の話じゃない。ぼくはもう、そろそろ足を洗うつもりでいるんだ。君は、まだ相変らず、かついでいるのか。」

「あたりまえよ。かつがなきゃおまんまが食べられませんからね。」

言うことが、いちいちゲスである。

「でも、そんな身なりでも無いじゃないか。」

「そりゃ、女性ですもの。たまには、着飾って映画も見たいわ。」

「きょうは、映画か?」

「そう。もう見て来たの。あれ、何ていったかしら、アシクリゲ、……」

「膝栗毛だろう。ひとりでかい?」

「あら、いやだ。男なんて、おかしくって。」

「そこを見込んで、頼みがあるんだ。一時間、いや、三十分でいい、顔を貸してくれ。」

「いい話?」

「君に損はかけない。」

二人ならんで歩いていると、すれ違うひとの十人のうち、八人は、振りかえって、見る。