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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

今まで見物達が生活していたのとは全く別な、一つの完全な世界が、目も遙かに打続いているのだ。何という驚くべき欺瞞であっただろう。パノラマ館の外には、電車が走り、物売りの屋台が続き、商家の軒が並んでいる。そこを、昨日も今日も明日も、同じ様に、絶え間なく町の人々が行違っている。商家の軒続きには私自身の家も見えている。ところが一度パノラマ館の中へ這入ると、それらのものが悉く消え去って了って、広々とした満洲の平野が、遙か地平線の彼方までも打続いているではないか。そして、そこには見るも恐しい血みどろの戦が行われているのだ」

廣介は芝原の陽炎を乱して、歩きながら語り続けました。千代子は夢見心地に恋人のあとを追うのです。

「建物の外にも世界がある。建物の中にも世界がある。そして二つの世界が夫々異った土と空と地平線とを持っているのだ。パノラマ館の外には確かに日頃見慣れた市街があった。それがパノラマ館の中では、どの方角を見渡しても影さえなく、満洲の平野が遙か地平線の彼方まで打続いているのだ。つまり、そこには同一地上に平野と市街との二重の世界が在る。少くともそんな錯覚を起させる。