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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
彼女は半信半疑の表情で尋ねました。
「そうだとも、気づかれぬ程の傾斜で、周囲が高くなっていて、そのうしろの様々のものを隠しているのだ。だが、狭いと云っても直径五六町はあるのだよ。その普通の広っぱを一層効果を出す為に無際涯に見せたまでなのだ。でも、たったそれ丈けの心遣いが、何というすばらしい夢を作り出して呉れたのだろう。お前には、今、説明を聞いたあとでも、この大平原がたった五六町の広っぱに過ぎないなどとは、どうしても信じられないことだろう。作者の私でさえもが、今こうして陽炎の為に波の様にゆらぐ地平線を眺めていると、本当に果しも知らぬ広野の中へ置去りにされた様な、云うに云われぬ心細さと、不思議に甘い哀愁とを感じないではいられぬのだ。見渡す限り何のさえぎる物もない、空と草だ。私達には今、それが全世界なのだ。この草原は謂わば沖の島全体を覆い、遠くI湾から太平洋へと拡がって、その涯はあの青空に連っているのだ。西洋の名画なれば、ここに夥しい羊の群と牧童とが描かれていることだろう。或は又、あの地平線の近くを、ジプシィの一団が長蛇の列を作って、黙々と歩いて行く所も想像出来る、彼等は半面に夕日を受けて、その非常に長い影が芝原の上をしずしずと動いて行くことでもあろう。