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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
肉体の柔かなバネ仕掛けの上に、深々としたこの花の絨毯は、彼等の乗物を、一層滑かに心地よくしました。
併し、この世界の美は、絶えず彼等の鼻をうっている、不思議な薫よりも、乳色に澱んでいる異様な空の色よりも、いつから始まったともなく、春の微風の様に、彼等の耳を楽しませている、奇妙な音楽よりも、或は又、千紫万紅、色とりどりの花の壁よりも、その花に包まれた山々の、語り得ぬ不思議な曲線にありました。人はこの世界に於て、始めて、曲線の現し得る美を悟ったでありましょう。自然の山岳と、草木と、平野と、人体の曲線に慣れた人間の目は、ここにそれらとはまるで違った曲線の交錯を見るのです。どの様な美女の腰部の曲線も、或はどの様な彫刻家の創作も、この世界の曲線美には比べることが出来ません。それは自然を描き出した造物主ではなくて、それを打ち亡ぼそうと企らむ悪魔だけが描き得る線であったかも知れません。ある人はそれらの曲線の重なりから、異常なる性的圧迫を感ずるでありましょう。併しそれは決して現実的な感情を伴うものではないのです。我々は悪夢の中でのみ、往々にしてこの種の曲線に恋することがあります。