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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

彼の夢が若し実現出来るものとしたならば、それは実に、世に比類なき大事業、大芸術に相違ないのです。それ故、一度この夢想境を彷徨った彼に取っては、世の中の如何なる事業も、如何なる娯楽も、さては如何なる芸術さえもが、まるで価値のない、取るに足らぬものに見えたのは、誠に無理もないことでした。

併し、そうして凡ての事柄に興味を失った彼とても、食う為には、やっぱり多少の仕事をしない訳には行きません。それには、彼は学校を出て以来、安飜訳の下請だとか、お伽噺だとか、まれには大人の小説だとかを書いて、それを方々の雑誌社に持込んでは、からくも其日のたつきを立てているのでした。最初の内は、それでも芸術というものに多少の興味もあり、丁度古来のユートピヤ作者達がした様にお話の形で彼の夢想を発表することにも少なからぬ慰めを見出すことが出来ましたので、いくらか熱心にそうした仕事を続けていたのですが、ところが、彼の書くものは、飜訳は別として、創作の方は妙に雑誌社の気受けが悪いのでした。それというのが彼のは、彼自身の例の無可有郷を、色々な形式で、微に入り細を穿ち描写するに過ぎない、謂わば一人よがりの退屈極まる代物だったものですから、それは無理もないことと云わねばなりません。