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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

が、今北見の言葉によって思い出せば、彼は確にその様な小説を書いていました。人工風景の創作ということは、彼の多年の夢であったのですから、その夢が一方では小説となり、一方ではその小説と寸分違わぬ実物として現れたとて、少しも不思議はないのでした。あれ程考えに考えた彼の計画にも、やっぱり手抜りがあったのです。それが物もあろうに没書になった原稿だったとは。彼は悔んでも悔み足りぬ思いでした。

「アア、もう駄目だ。とうとうこいつの為に正体を見現されたかも知れない。だが、待てよ。こいつの握っているのはたかが一篇の小説じゃあないか。まだへこたれるには少し早いぞ。この島の景色が他人の小説に似ていたとて、何も犯罪の証拠にはならないのだから」

廣介は咄嗟の間に、心を定めて、ゆったりした態度を取返すことが出来ました。

「ハハハハ……、君もつまらない苦労をする男だね。僕が人見廣介だって? ナニ人見廣介だって一向構いはしないが、どうも僕は菰田源三郎に相違ないのだから、致方がないね」

「イヤ、私の握っている証拠がそれ丈けだと思っては、大間違いですよ。私は何もかも知っている。知ってはいるのだけれど、あなた自身の口から白状させる為に、こんな廻りくどい方法を採ったのです。