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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
うしろでは、男達は知合いと見えて、まだ坐ったまま、ボソボソと話し合っている、その声が機関の音とごっちゃになって、妙に睡気を誘う様な、けだるいリズムを作るのです。その上、海は静らしく、波の音も低く、動揺も殆んど感じられぬ程で、そうして、じっと横になっていますと、二三日来の興奮が、徐々に静まって行って、その空虚へ、名状し難い不安の念が、モヤモヤと湧き上って来るのでした。
「今ならまだ遅くない。早く断念するがいい。取り返しがつかなくなる前に、早く断念するがいい。お前は生真面目に、お前のその気違いめいた妄想を実行しようとしているのか。本当に冗談ではなかったのか。一体それでお前の精神状態は、健康なのか。若しやどこかに故障があるのではないか」
時間と共に彼の不安は増して行きました。併し、彼はこの大魅力をどうして捨て去ることが出来ましょう。不安がる心に対して、彼のもう一つの心が説服を始めるのです。どこに不安があるのだ。どこに手抜かりがあるのだ。これまで計画した仕事を、今更ら断念出来るものか。そして、彼の頭の中には、彼の目論見の一つ一つが、微細な点に亙って、次々と現れて来るのです。