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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
若しかしたら、菰田家の当主は気でも狂ったのではあるまいか、などと噂し合ったことでした。というのには、又訳のあることで、当時の菰田家の主というのは、癲癇の持病を持っていて、それが嵩じて、少し前に一度死を伝えられ、附近の評判になった程の立派な葬式さえ営んだのですが、それが、不思議にも生き返って、併し生き返ってからというものは、ガラリ性質が変って、時々非常識な、狂気じみた行動があるとの噂が、その辺の漁師達にまで伝わっていて、さてこそ、今度の工作も、やっぱりそのせいではないかと、疑いを抱くことになったのです。
それは兎も角、人々の疑惑の内に、といって都に響く程の大評判にもならず、このえたいの知れぬ事業は、菰田家の当主の直接の指図の下に、着々と進捗して行きました。三月四月とたつに従って、島全体を取囲んで、丁度万里の長城の様な異様な土塀が出来、内部には、池あり、河あり、丘あり、谷あり、そして、その中央に巨大な鉄筋コンクリートの不思議な建物まで出来上りました。その光景がどの様に奇怪千万な、そして又世にも壮麗なものであったかは、ずっと後になって御話する機会があろうと思いますから、ここには省きますが、それが若し完全に出来上って了ったなら、どんなにすばらしいものだったでありましょう。