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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

彼は、往来から見えぬ様に用心しながら、その灌木の向う側に、身体をくっつける様にして、息を殺して横になっていました。そして、灌木の隙間から、街道を通る百姓達の足だけを眺めながら、気が落ちつくに随って、彼は又変てこな気持になって来るのでした。

「これですっかり計画通り運んだ訳だ。あとは誰かが俺を見つけ出してくれさえすればよいのだ。だが、たったこればかりのことで、海を泳いで、墓を掘って、頭を丸めた位のことで、あの数千万円の大身代が、果して俺のものになるのかしら、話があんまり甘すぎはしないか。ひょっとしたら、俺は飛んでもない道化役を勤めているのではないかな。世間の奴らは、何もかも知っていて、態と、面白半分にそ知らぬ振りをしているのではないかな」

かくして、ある激情的な場合には、まるで麻痺して了う所の、常人の神経が、少しずつ彼に甦って来ました。そして、その不安は、やがて、百姓の子供達が、彼の狂人じみた経帷子姿を発見して、騒ぎ立てるに及んで、一層はげしいものになったのです。

「オイ、見てみい、何やら寝てるぜ」

彼等の遊び場所になっている、森の中へ這入ろうとして、四五人連れの一人が、ふと彼の白い姿を発見すると、驚いて一歩下って、囁き声で、外の子供達に云うのでした。