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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
外見は半ば意識を失った、半死半生の病人として、身動きもせず床の中に横わりながら、彼の頭丈けは、妙な例ですけれど、五十哩の速力で疾駆する自動車の運転手の様に、機敏に、迅速に、しかも正確に、火花を散らして廻転していました。
医師の診断は、大体彼の予期していた様なものでありました。それは菰田家御出入の、T市でも有数の名医だということでしたが、彼は、この不可思議なる蘇生を、カタレプシという曖昧な術語によって、解決しようとしました。彼は死の断定が如何に困難なものであるかを、様々の実例を挙げて説明し、彼の死亡診断が決して粗漏でなかったことを弁明しました。
彼は、眼鏡越しに、廣介の枕頭に並んだ親族達を見廻して、癲癇とカタレプシの関係、それと仮死の関係等を、むずかしい術語を使って、くどくどと説明するのでした。親族達はそれを聞いて、よく分らないなりに、満足していた様です。本人が生返ったのですから、仮令その説明が不十分であろうとも、別段文句を云う筋はないのでした。
医師は不安と好奇心の入混った表情で、丁寧に廣介の身体を検べました。そして、何もかも分った様な顔をして、その実うまうまと廣介の術中に陥っていたのです。