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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

低脳らしいとか、だからあの工場よりはこの山林の方を先に手離すことにしようとか、附近にそれの売りに出るのを待っている様な、山林経営者はないだろうかとか、其様な点について、彼は様々に心をくだくのでありました。それと同時に、彼は旅の道連れの心安さを幸いに、角田老人と仲好しになることに全力を傾け、遂には、財産処分の相談相手とまで、彼の心を柔げることに成功したのでありました。

そうして旅を続けている内に、廣介はいつとはなく、何の作為を加えずとも、生れつきの千万長者、菰田源三郎になり切って行くのでした。彼の事業の管理者達は、一も二もなく、彼の前に叩頭して、疑いのけぶりさえ見せませんし、地方地方の縁故のもの、旅館などでは、まるで殿様を迎える騒ぎで、彼の顔を見つめる様な、無躾なものは一人もありませんし、それに時々は、亡き源三郎の顔馴染の芸妓などから、「お久し振りでございますわね」などと、肩を叩かれたりしますと、彼はもう益々大胆になって、大胆になればなる程、お芝居が板について、今では、正体を見現されはしないかという心配などは、殆ど忘れた形で、彼が嘗て、人見廣介と名のる貧乏書生であったことは、その方が却て嘘の様な気さえするのでありました。