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パノラマとうきだん
パノラマ島綺譚
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页
そして、それが彼女の目の前に接近した時の恐しさ、正面から見れば、殆ど顔ばかりの獣です。短い足の上にすぐ口が開き、象の様な細い目が直ちに背中の突起物に接しています。皮膚は、非常にでこぼこの多い、ざらざらしたもので、その上に醜い斑点が黒く浮き出している、それが恐らく小山の様な大きさで、まざまざと彼女の目に映ったのです。
「あなた、あなた、……」
彼女はやっと目を離すと、襲われた様に夫の方を振向きました。
「なあに、怖いことはないのだよ。それは度の強い虫眼鏡なんだ。今お前が見たものはね、ホラ、こうして、このあたり前のガラスの所から覗いてごらん、あんなちっぽけな魚でしかありゃしない。ね、躄魚って云うのだよ。鮟鱇の類なのだ。彼奴は、ああして鰭の変形した足で以て、海の底を這うことも出来るのだよ。アア、あの嚢みたいなものかい。あれは見る通り海藻の一種で、わたもって云うんだ相だ。嚢の形をしているんだね。サア、もっと向うの方へ行って見よう。さっき船の者に云いつけて置いたから、うまく間に合えば、もう少し行くと、面白いものが見られる筈だよ」
千代子は夫の説明を聞いても、怖いもの見たさの奇妙な誘惑に抗し難くて、再三度、この廣介のいたずら半分のレンズ装置を、覗き直して見ないではいられませんでした。