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パノラマとうきだん

パノラマ島綺譚

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1926(大正15)年10月~1927(昭和2)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 78,920 字 · 153 页

青空文庫

恐らくは一人の女が白鳥の衣の中に腹這いになって、手と足で水を掻きながら泳いでいるのでありましょう。ムクムクと動く柔かな肩やお尻の肉の工合、着物を通して伝わる肌のぬく味、それらは凡て人間の、若い女性のものらしく感じられるのです。

併し、千代子はその上白鳥の正体を見極める暇もなく、更らに奇怪な、若しくは艶麗なある光景に目をみはらねばなりませんでした。

白鳥が二三十間も進んだ時分、水底から彼女の傍に、ポッカリと浮上ったものがありました。浮上ったかと思うと、白鳥と並んで泳ぎながら、肩から上を彼女の方にねじ向けて、ニッコリ笑ったその顔は、まぎれもない、先刻海底で彼女を驚かせた、あの人魚の女に相違ないのです。

「まあ、あなたはさっきの方ですわね」

併し、声をかけても、人魚はつつましやかに笑うばかりで、少しも言葉を返そうとはせず、ただやさしく会釈しながら、静に泳いでいるのです。そして、驚いたことには、人魚は決して彼女一人に止まらず、いつの間にか、一人二人と、同じ様な若い裸女達の数がふえ、見る見る一団の人魚群を為して、或は潜り、或は跳ね上り、或は戯れ合い、二羽の白鳥に雁行するかと見れば、抜手を切って泳ぎ越し、遙か彼方に浮上って、手まねきをして見せたり、闇色の絶壁と、漆の様な水を背景とし、そこに一糸を纒わぬ艶かしき影を躍ら