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ヨブきこうえん
ヨブ記講演
内村 鑑三
丸の内の大日本私立衛生会館における内村聖書研究会においてのヨブ記講義、1920(大正9)年4月25日~6月27日、9月12日~10月10日、10月24日、11月21日、12月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 92,828 字 · 185 页
そこに明かなる矛盾がある。しかし心霊の実験としてはかえってこの事は真である。あたかも航海者が海上暴風雨に会して船は難破し、身はまさに溺れんとして、「海よ我を記せよ」と叫びて絶望の悲声を発するかと思えば、忽ち暗雲風に開けて雲間に星辰の燦くを見て、そこに微かなる希望を起すが如き状態である。悲壮の叫びである。痛烈なる要求である。微かなる、しかし打ち消しがたき希望である。
◯二十節に言う「わが友は我を嘲る、されどもわが目は神に向いて涙を注ぐ」と。友には理不尽なる嘲笑を浴びせられてその誤解を解くの道なし、ここにおいて神に向いてただ涙の目を注ぐのみと、哀切の極である。無限の感情がこの一語の中に籠っている。言い知れぬ深刻、たといがたき崇高がこの一節において感ぜられる。他の文籍に類例なき偉大なる語である。
◯彼を誤解し、彼を難詰し、彼を侮辱する友を全く忘れ得ぬは何故であるか。「わが友は我を嘲る」といいて、友の嘲笑をいつまでも気に掛けおるは如何。そは友の誤解嘲笑は、彼にとりて浅からぬ手傷であるからである。あたかも針を以て心臓を刺されし如く、彼の心はこれがために激痛を起したのである。