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ヨブきこうえん
ヨブ記講演
内村 鑑三
丸の内の大日本私立衛生会館における内村聖書研究会においてのヨブ記講義、1920(大正9)年4月25日~6月27日、9月12日~10月10日、10月24日、11月21日、12月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 92,828 字 · 185 页
いずれも信仰を失いし者の自殺である。人生の禍悉く臨みて死を懐う切なりしヨブすら、自ら生命を絶たぬのである。十一節―十九節を熟読せよ、そこに彼の死を慕う心は痛切に表われているが、自殺せんとの心は微塵も出ていないのである。「何とて胎より出でし時に気息絶えざりしや……しからば今は我れ偃して安んじかつ眠らん」とありて、彼は生れてただちに死せしならば今墳墓にありていかに安けきかなと歎いたのである。彼は今ここに墓に行きたしと望んだのではない。また「かかる者は死を望むなれども来らず」とあるは彼が自然死を求むれど得ざるを悲みし語であって、自殺という観念が彼の心に全然なかったことを示すのである。彼は自殺の罪なることをよく知っていたのである。彼れもしこの時自殺せしならば自身が後の大歓喜に入る能わざりしのみならず、ヨブ記の現わるるはずもなく、従って永久にこれを以て人を慰むることも出来なかったのである。実に至大なる不利益であったといわねばならぬ、わが生命を愛擁し、これを善用して自他を益すべしとは、聖書の明白なる教訓である。問題が行きつまりしとて自殺を選ぶが如きは聖書の精神に反し、また父の聖旨に背く行為である。