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さんじゅうにこく
三十二刻
山本 周五郎
「国の華」1940(昭和15)年9~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 页
三
三
山脇長門は廻座の胆入格であり、疋田図書は譜代中での名門である。二人は互いの性格が合わぬだけでなく「廻座」と「譜代」と、対立する勢力の代表的位置のために、長いあいだ悶着を繰返してきた間柄にあった。
それがついに来るところへ来たのだ。
廻座の者は政治に参与することを許されていない。これはその格別の位置によるものであるが、それが長いこと彼等の不満の種であった。政権を与えられない格別の待遇は床の飾物だ。そこで彼等は参政の権利を持とうとしはじめた……むろん譜代の人々は反対である。なかんずく疋田図書は矢表に立って、廻座の特殊な位置を説き、はっきり譜代とのけじめをつけた。
――廻座は幕府に於ける外様である。幕府の政務が譜代の手にあるが如く、お家に於ても政治は譜代の者が執るべきである。
図書の説は、主筋の佐竹一門もこれを推すところとなり、廻座一統の希望は潰滅した……長門と図書との争いはこれで爆発した。喧嘩というものは理屈で始って腕力に終る。長門は憤懣を暴力に訴えた、図書もまた避くべからずとみて、ついに受けて起ったのである。
「まず落着け、みんな鎮ってくれ」
図書はやがて声を励して云った。