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さんじゅうにこく
三十二刻
山本 周五郎
「国の華」1940(昭和15)年9~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 页
五
「はい」
「酒瓶を砕いたのもそうか」
「はい、わたくしがいたしました」
家扶はあっと低く叫んだ、図書は拳で膝を打った。衝上げてくる忿怒を抑えることができないらしい。
「訳を申せ、仔細があろう申せ!」
「別に仔細はござりませぬ。義父上さまがお申付けあそばすことを、わたくしが代っていたしたのでございます」
「わしがなぜ左様なことを申付けるのだ」
宇女は答えなかった。答えずにじっと図書の眼を見上げていた……その刹那である。凄じい矢風と共に、一本の矢がひょうと空を飛んできた。そして、図書の肩をかすめて、後の壁へぷつっと突立った。
「あ、危い!」
と六郎右衛門が叫ぶより疾く、宇女が身を飜えして図書の前へ立塞がった……続けざまに二の矢、三の矢、四の矢、ふつふつと飛んでくる矢の、二本までが宇女の袖を貫いた。
五
射込んできた矢の二本までが、宇女の袖を縫い、一本は床板を削ってからからと鳴りながらはね飛んだ。図書は床几に掛けたまま黙っていた。
家扶の六郎右衛門は「おみごと」と云いたげな眼で、宇女の横顔を見上げていた。
「攻寄せたぞ」
「山脇が寄せたぞ、いずれもぬかるな」
「持場へつけ」