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さんじゅうにこく
三十二刻
山本 周五郎
「国の華」1940(昭和15)年9~10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,273 字 · 31 页
七
ように思える。図書は自分の眼に狂いがなかったと信じた。
――平徒士の娘はやはり平徒士の娘だ。
そう見極めをつけた彼は、主馬が江戸へ出府するのを待兼ねて、宇女を実家へ戻してしまったのである。
七
図書のように育ち、図書のような性格の者は自分の思考を客観する習慣を持っていない。自分が善しとすることは他人にとっても同様だと思う。彼は息子の若き過を撓直したのだと信じ、宇女に対しては自分が解決の責任を執ると決めていた。それですべて片がついたものと考えて疑わなかった……だから、一家必死と定ったこの場合に、宇女が帰ってきたことは正に彼の意表を衝く出来事であった。単に帰ってきたことが意外なばかりでなく、火薬を水浸しにし酒瓶を砕き、狙矢の前に図書の楯となった態度など彼が「平徒士の娘」だと見ていた鑑識とはかなり懸隔たったものであった。
――だがどうして火薬を使えなくしたのか、なんのために酒瓶を砕いたのか。
図書は同じ考えの上を往きつ戻りつしていた。
僅な小競り合いがあっただけで、夜が明けた。
敵は遠巻きにしたまま、時折り烈しく矢を射掛けるが、華々しく突込んでこようとはしなかった。