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かずえはいそがしい

主計は忙しい

山本 周五郎

「奇譚」1940(昭和15)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页

青空文庫

へやあ御免と云いながら無遠慮に上りこんだ。

「あら牧野さんですか、ちょっと待って下さいな」

襖の向うでそう云う声がしたとき、すでに主計はその襖をあけていた。

「あらいけません、こんな恰好なのよ」

いま風呂から帰ったところらしい。肌ぬぎになって鏡へ向っていた女が、両袖で胸を隠しながら振返った。――これが園次である。なるほど美しい。柔らかな肉付きのやや肥えた躯つきであるが、背丈が小づくりで関節が緊っているから、寧ろかたちよく痩せてみえるくらいだ、年はもう三十二になるのだが、二十三四より上にはみえない。こんなしょうばいに似合わず、仇っぽいというよりやぼったい感じで、それが一種のひと懐っこい美しさを表わしていた。

「これはどうも」主計は少しも騒がず、「――向うの部屋はあいているかね」

「ええおしたくが出来てるでしょう」

「じゃあ御免を蒙るよ」こう云って次の間へゆく、そこは女主人の寝間らしく、色なまめかしい道具がのべてある、主計は羽折と袴をぬいだなり、その中へもぐりこんで寝てしまった。――これは相当けしからぬ仕掛けである、彼ほどの人間がかくの如きじだらくな振舞をするとはなにごとであるか、読者はこう敦圉されるかもしれない、だが心配は御無用、一時間ぐっすり眠った彼はとび起きて顔を洗うと、園次を相手にまじめくさって荻江節の稽古を