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かずえはいそがしい
主計は忙しい
山本 周五郎
「奇譚」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页
「わかりました、気をつけます」
主計は顔だけさっさと洗い、「お先へ」と云って逃げだした。神明の家のことが知れたらしい、どこからわかったろう、誰にもみつかる筈はないんだが、――主計は首を傾げながら急いで着替えをした。朝食が済んでもまだ外はほの暗かった。主計はいつもより早く家を出ると、榎町にある秋元邸へまわり、木下六郎兵衛の住居を訪ねた。起きたばかりとみえて、六郎兵衛は冴えない顔で出て来た。
「やあ早いな、感心に忘れなかったな」
「怒られるからね、じゃあこれを」
「済まなかった、慥かに、――あがって茶でも飲んでゆかないか」
「そうしちゃあいられない、ここで失敬する」
「七日にも忘れずに頼むぞ」
「なんだっけ、七日って」
「おい大概にしろよ」六郎兵衛は睨んだ、「――昨日も式はなんだなんて云ってたが、それじゃあすっかり忘れていたんだな」
「いや忘れちゃあいないが念のために」
「おれの祝言だ」六郎兵衛はぶっつけるように云った、「――おれが結婚をするんだ、この家へ嫁が来るんだ、七日の宵に祝言の杯をあげるんだ、わかったか」
「わかったよ、忘れやあしないよ、だが、――あれは七日だっけかね、七日というと」