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かずえはいそがしい
主計は忙しい
山本 周五郎
「奇譚」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页
「今日が六日だから七日は明日だ」
「明日ね、へえー、本当だろうね」
「殴るぞ」
「いいよわかったよ」主計は後ろへ退る、「――七日の夕方だろう、来ればいいんだろう、来るよ、冗談じゃない、むやみに祝言の重なる日があるもんだ、よっぽどの吉日なんだな」
「なにをぶつぶつ云ってるんだ」
「なにこっちの話さ、じゃあ失敬」
秋元邸の門を出ると、「さあ忙しいぞ」と呟きながら走りだした。一日に二つの結婚があったって別にふしぎはない、黄道吉日などと云って、そんな日には江戸じゅうに幾百組も結婚式があるかわからない、日本全国にしたらたいへんなものだろう、しかし妹と親友の二た組がかち合うのには弱った、おまけに祝言なんというやつはたいてい宵のくちにやるものだから、両方に義理を立てるとすればよっぽど敏捷に動かないと間に合わない。
「知らなかったねこいつは、驚いた、電光石火といかなくちゃならん、やあお早う」彼は例の如く道場まで走り続けた、「――よく精が出るな、いい日和で御苦労」
下男たちにこう云いながら門をはいる、そしてまた忙しい一日が始まるのだった。――さて、稽古が終って、井戸端へ躯を拭きに出たとき、彼はふと昨日そこで折江と話しあったことを思いだしてはっとした。