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かずえはいそがしい
主計は忙しい
山本 周五郎
「奇譚」1940(昭和15)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,315 字 · 37 页
「自重も我慢もするだけはした、けれどもその限度がみえてきた、先生の気持もおれからはもう離れている、おれはおれの腕、おれのくふうで道を拓くより仕方がなくなったんだ、おれのくふうした手で梶派を破るよりほかにおれの生きる道はなくなったんだ」
「しかしあの手はよくないぞ」主計はできるだけ穏やかに云った、「――刀法は幾百年という長い年月を経て、経験とくふうと錬磨を積んできた、法にかなわぬものは亡び、成長すべきものが成長してきた、そこもとが今それを無視していかなる奇手を編み出そうとも、無法が法に勝てるわけはないだろう」
「おれの逆胴が無法だと云うのか」
「そこもと自身がいちばんよく知っている筈だ、もういちど云うがあれは悪いよ」
「口ではなんとでも云えるさ」平之助はぴくっと唇をひきつらせた、「――今そこもとはいちおう負けたと云ったな、ふん、竹刀だからそんなことが云えるんだ、あれがもし真剣なら、失敬だがそこもとの命は」
「わかった、それまでにしよう」主計はにこっと笑って手をあげた、「――ここで喧嘩をしたってしようがない、それより少し休まないか、実は折江さんが明日、十日ぐらいの予定で江の島から鎌倉へ見物にゆかれるんだ、供は松乃さんと吉造ということだったと思うが、護衛役ということでそこもとにいって貰えたらいいんだが」