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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

」

「そうして君に出来る唯一の行動は、まっぱだかで人喰い川を泳ぐだけのものじゃないか。ぶんを知らなくちゃいけない。」私は、勝ったと思った。

「さっきは、あれは、特別なんだよ。」少年は、大人のような老いた苦笑をもらした。「どうも、ごちそうさま。」と神妙にお辞儀して、どんぶりを傍に片附け、「事情があったんだよ。聞いてくれるかね?」

「言ってみ給え。」騎虎の勢である。

「言ってみたって、どうにもならんけど、このごろ僕は、目茶苦茶なんだよ。中学だけは、家のお金で卒業できたのだけれど、あとが続かなかったんだ。貧乏なんだよ。僕は数学を、もっと勉強したかったから、父に無断で高等学校に受けて、はいったんだ。葉山さんを知ってるかい? 葉山圭造。いつか、鉄道の参与官か何かやっていた。代議士だよ。」

「知らないね。」私は、なぜだか、いらいらして来た。どうも私は、人の身の上話を聞く事は、下手である。われに何の関りあらんや、という気がして来るのである。黙って聞いているうちに、自分の肩にだんだん不慮の責任が覆いかぶさって来るようで、不安なやら、不愉快なやら、たまらぬのである。その人を、気の毒と思っても、自分には何も出来ぬという興醒めな現実が、はっきりわかっているので、なおさら、いやになるのだ。