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こじきがくせい

乞食学生

太宰 治

「若草」1940(昭和15)年7~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,682 字 · 68 页

青空文庫

」と言って念入りに溜息まで吐いてみせた。

「かまわない。大丈夫だ。」私は頑張った。「こんな学生を、僕は、前に本郷で見た事があるよ。秀才は、たいてい、こんな恰好をしているようだ。」

「帽子が、てんで頭にはいらんじゃないか。」佐伯は、またしても私にけちを附けた。「いっそ、まっぱだかで歩いたほうが、いいくらいだ。」

「僕の帽子は、決して小さいほうでは、ありません。」熊本君はもっぱら自分の品物にばかり、こだわっている。「僕の頭のサイズは、普通です。ソクラテスと同じなんです。」

熊本君の意外の主張には、私も佐伯も共に、噴き出してしまった。熊本君も、つい吊り込まれて笑ってしまった。部屋の空気は期せずして和やかになり、私たち三人、なんだか互に親しさを感じ合った。私は、このまま三人一緒に外出して、渋谷のまちを少し歩いてみたいと思った。日が暮れる迄には、まだ、だいぶ間が在る。私は熊本君から風呂敷を借りて、それに脱ぎ捨てた着物を包み、佐伯に持たせて、

「さあ行こう。熊本君も、そこまで、どうです。一緒にお茶でも、飲みましょう。」

「熊本は勉強中なんだ。」佐伯は、なぜだか、熊本君を誘うのに反対の様子を示した。