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ぼうれいホテル
亡霊ホテル
山本 周五郎
「新少年」1937(昭和12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,706 字 · 20 页
――何だか厭な事ばかり続く。
それからそれへ考え廻らしているうちに、それでも朝からの疲れに負けたとみえて、いつかうとうとと眠りはじめた。
――どのくらい眠ったであろうか、ふと耳許で、
「――起き給え、伊藤……」
と囁く声にはっと目覚めると、鹿谷博士が闇の中に立っていて、
「音をさせぬように起きるんだ。支度が出来たら是を持って……」
「――あ、拳銃ですね」
「叱ッ、黙って跟いて来給え」
何が始まるのだろう、急いで身支度をした伊藤豊治は、渡された拳銃を持って、博士のあとからそっと部屋を出た。――すると、意外にも博士は、例の亡霊の部屋へ入って行くのである。
「先生、どうなさるのですか」
「亡霊を退治するのさ」
博士は闇の中でにやりと冷笑したようだった。
――その部屋はひどく埃臭かった。勿論電灯は消えていたが、両側の窓の鎧扉が下りていないので、硝子窓から星空の光が入って来るため、部屋の様子は朧気ながらもよく見ることが出来た。
「此方へ来給え、静かに……」
博士は伊藤青年を北側の隅へ引張って行って、其処に在る卓子の蔭へ身を隠した。
「黙って待つんだ、音をさせては不可ん。亡霊は人のいる気配でも嫌うからな、――なるべく楽にして、僕が合図するまではどんな事があっても動かないように」