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ぼうれいホテル

亡霊ホテル

山本 周五郎

「新少年」1937(昭和12)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,706 字 · 20 页

青空文庫

見えざる間諜

さあ是からもうひと働きだ」

博士はそう云うと、まだ渋っている伊藤青年を促しつつ元の部屋へと戻って行った。

見えざる間諜

それから博士と伊藤青年がどんな活躍をしたかは分らない、――翌る朝十時、ロビイでお茶の時間が開かれた時、博士と伊藤豊治の二人は、さっぱりと身装を改めて、片隅の卓子で熱い珈琲を啜っていた。

その日はばかに客が多く、朝食だけ喰べに来たらしい紳士や、面会人と見える人々が、それぞれ珈琲を啜ったり、トーストと塩豚・卵をつついたりしていた。――十時が十五分過ぎた頃だった。ホテルの表に一台の高級車が着いて、三人の欧羅巴人がロビイへ入って来た。この三人は毎朝ここへ朝食だけを喰べに来るので、毎も奥の方に定って卓子が用意されてあるくらい馴染の客だった。

入って来た三人は、訛りのある仏欄西語で口やかましく話しながら、自分たちの卓子に就いて煙草を取出した、――もう毎日のことで注文は分っているらしく、やがて給仕(――伊藤青年に亡霊の話をした給仕である)が銀盆の上へ、珈琲やトーストやサラダを載せて運んで来た。

「お早うございます」

「ヤアオ早ウ、宜イ天気デスネ」

「左様でございます、――今日は特にベーコン・エッグスを致しましたからどうかお試し下さいまし」