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ぼうれいホテル
亡霊ホテル
山本 周五郎
「新少年」1937(昭和12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,706 字 · 20 页
惨劇の部屋
惨劇の部屋
伊藤豊治青年が洗面を済まして着換えをしているところへ、制服を着た給仕が朝の珈琲を運んで来た。
「お早うございます」
「ああお早う」
「好くお寝みになれましたか」
伊藤青年はネクタイを結びながら、給仕の支度する珈琲の卓子に向って掛けた。――あまり機嫌の好い顔つきではない。
「よく眠れなかったよ君、一体この向うの部屋にはどんな客が泊っているんだい? ひと晩中へんな音をたてたり妙な声をしたり、実に閉口したぜ」
「向うの部屋と申しますと?」
「廊下の向うさ、この翼屋で、向うと云えば此室と廊下の向うと二部屋しか無いじゃないか」
給仕はなにか思い当る事があるらしく、サッと顔色を変えながら眼を外らした。
伊藤豊治は九州大学の工科研究室に籍のある研究生で、恩師の鹿谷弘吉博士が、或る研究報告をするため上京した後を追って、その助手を勤めるために昨夜東京へ着いたのである。――ところがこのホテルへ来てみると、博士は研究上の用務を帯びて仙台へ出張したということで、伊藤青年はゆうべ独りでホテルへ泊ったのであった。
彼の泊った部屋はホテルの翼屋で、そこには廊下を隔てて二つの部屋が向い合っている。