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ぼうれいホテル
亡霊ホテル
山本 周五郎
「新少年」1937(昭和12)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,706 字 · 20 页
そして同時に、
ビリリリ、ビリリリリ。
と云う、まるで長い紙をそっと引裂いているような、静かな低い物音がし始めた。
凡べてがゆうべの通りである、――瀕死の女の悲しげな呻き、紙を引裂くような奇妙な音、伊藤青年は総身に水を浴びたように、慄然として息をのんだ。
「そうか、――」
不意に博士が低く囁いた。
「そうか、そうだったのか、――遉にそこ迄はこの鹿谷も気付かなかったぞ、ふふふふ」
「どうなすったのですか、先生」
「叱ッ……誰か来る、――」
慌てて博士が抑えた、――と、いつ何処から現われたか、右手の闇の中に白い被衣を頭から被った亡霊のようなものが、ぼーっと幻の如く現われて来た。伊藤豊治は恐怖のあまり、我を忘れて拳銃の引金に指をかけた。と博士はその手首をぐいと強く掴み、動くな! と云うように押えつけた。奇怪な亡霊の姿が闇の中に現われてから、凡そ二十分も経ったと思う頃……例の紙を引裂くような物音がぴたりと止んだ。――然しまだ、怪しい女の呻声は、断末魔の苦痛を訴えるように続いている。
亡霊は闇の中を辷るように、東側の壁の方へゆらめいて行った。――そこで何かしているらしい、カチリと云う音がして、暫くすると今度は、再び辷るように右手へ去って行く。