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にんげんせいかつのむじゅん
人間生活の矛盾
丘 浅次郎
「中央公論」1926(大正15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,798 字 · 36 页
それゆえ、階級本能の発達した社会では、哲学でも道徳でも、宗教でも教育でも目上の者に服従することを人生における最上の善とみなし、目上の者を極度に崇拝して、その者にほめられるのを何よりも名誉、その者に叱られるのを何よりの恥辱と考える。目上の者からほめたしるしの物を貰えば有難くて堪らずつねにこれを帯びて人に誇り、貰えなかった連中は、これを見て非常に羨しがる。幾人か集まればいつも話の題は階級のことにきまっている。階級本能が発達すると、人間の頭は生れながらに、全く階級の観念に司配せられ、目上の者には服従せずにはいられず、子は親に服従し妻は夫に服従し、幼者は老人を敬い、弟子は師匠の影を踏まぬ。団体間の競争の結果として社会本能が発達すれば各人は一点の私心をも挾まず、ことごとく、蕃社全体の利益のためのみに行動し、またそれと同時に階級本能が発達すれば、蕃社内の上下の区別が判然と定り、下は上を敬うて忠勤をつくすから、その間になんら矛盾の起るべき道理がない。その当時の蕃人らは何とも思わずに暮していたであろうが、後の世から振り返って見ると、実に黄金時代ともいうべき状態であった。