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にんげんせいかつのむじゅん
人間生活の矛盾
丘 浅次郎
「中央公論」1926(大正15)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,798 字 · 36 页
これに反して、階級本能の退化した人間は他人に頭を下げることが辛いから、とうてい他人の子分になる資格がなく、したがって、時の権力者から引き立てられる見込がない。それゆえ、いつまでも低い階級に留らねばならぬ。自分が低い階級にありながら少しも高い階級の者を尊敬する心が起らぬから、そのいうことは、無論上の階級の人々の気に入らぬ。新旧思想の衝突はかようにして生ずるが、思想の基礎となる本能に相違がある以上は、何と理窟で責めても、考えの一致する望みはきわめて少なかろう。
今の世の中には、未だ階級本能のあまり退化せぬ人間が多数を占めていることは、いずれの方面を見てもすぐに知れる。社会の制度が階級的にできているゆえ、公けの役に階級の別があって、これがすこぶる重大視せられるのは止むを得ぬが、それと何の関係もない方面でも、人間に等級を付けて各等級ごとに取扱いを異にすることが広く行なわれている。有名な坊主が地方を巡回すると、その入浴した湯を竹筒に貰うてありがたがるという話を聞いたが、およそ階級本能の退化せぬ人は上の等級の者と幾分かでも関係することがありがたくて堪らず、せめてはその肉体に触れた湯でも拝もうと思うのであろう。