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ふゆがれ
冬枯れ
徳永 直
「中央公論」1934(昭和9)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,850 字 · 48 页
「金持の家じゃべつだけれど、貧乏人の工場町じゃ青い草一本ロクに育たないんだ。家と家とがくっつき合って、太陽のめもささんし、老人の茶呑話なンてしたくも出来ァしねえ――」
「はァい、そうでッしゅなァ」
傍から、妹婿が合槌うった。鷲尾は工場時代からの友達、KやMなどの実例を話した。Kは印刷工で、田舎の兄弟が死んでしまったために、年老った両親を東京へひきとったが、眼のうすい父親も、耳の遠くなった母親も、半年も経たぬうちに田舎の土を恋しがりはじめ、それでも倅のKに怒りつけられれば悄々と、近所の省線電車の土堤などから雑草をぬいてきては、軒先三尺の路地口へそれを植えて、陽のめのささぬ廂ごしに、見えない太陽を振り仰いでいるんだと、Kはいつだったか鷲尾に眼鏡をはずして涙をぬぐいながら語ったのだった。――
「実際、そんなこたァ東京の工場町じゃザラなんだ。田舎が何とかしてるうちぁ貧乏人の年寄ァ東京に来ない、ホンとだよお父っつぁん――」
鷲尾は父親のおこられてでもいるようにしだいに俯むく顔をのぞきながら
「若い者ァ東京だってすぐ育つ、プロレタリアになれるからなんだ。けれど骨の髄まで百姓の年寄ぁダメなんだよ」