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ふゆがれ

冬枯れ

徳永 直

「中央公論」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,850 字 · 48 页

青空文庫

「おしッこだよウ……」

「よし、よし」

鷲尾は倅の凹んだたよりなげなウツロな眼や、でッかちになった頭などを、まるで夢心地でシゲシゲと凝つめながらやっと抱えあげた。便器に黄色い小便を少したらした子供は、寝床にねかすと白くカサカサな唇を開いて、「お湯ウ」と云った。

「もういいか?」

匙ですくってやるのを、金魚のようにパクパク吸いながら、病人は「ウン」と首をうごかした。

「ボク癒ったら、東京へ帰るんだねェ」

「ああ、だから早く癒るンだよ」

毛布をかけてやると、子供はおとなしくだまり、ウッスラと眼を閉じていた。青く萎びた頤や、微かな呼吸ごとにヒクついている痩せた小鼻のあたりを、じッとみているうちに、急に寒さを感じて、鷲尾はあわててドテラをひっかけた。

もう眠る気はしなかった。消えかかった火鉢に炭火をオコしながら、ときどきガタガタと軒を揺すぶる風の音や、近くの部落あたりかららしい二番鶏の声をきいていた。――

……それはたしか、郷里の田圃のようでもあれば、東京郊外のNあたりの原ッぱでもある景色だった。夕方のように暗くて、風が轟々と唸っているのだ。自分の前方を仲間の作家が現在は獄中にいる筈のNやTや、それから去年から……………Kなどが歩いている後姿だけが見える。