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ふゆがれ

冬枯れ

徳永 直

「中央公論」1934(昭和9)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,850 字 · 48 页

青空文庫

「近頃はニュームが安うなってなァ、竹柄杓もとんと駄目じゃ……」

店土間の片隅で内職をしている父親が話しかけた。この土地には多い孟宗竹の根ッこで竹の柄杓とか箸とかを作るのだが、不恰好で重たくてもまだ百姓達の間には売れた。女房に死なれてから、ひどくボケたような父親は、白髪頭に鉢巻を締めて皺で小さくなったような人の好い顔をあげて云うのだった。前歯が殆んどないので「フア、フア」という風にきこえる。「銓」という両方に握りのついた刃物で竹の皮を削りながら、それが固い節にぶっつかるたびに、枯枝のような腕がしばらくトコロテンのようにふるえていた。

「そッでもこないだは、「三井」から註文があってなァ――」

「三井?」

大きなことをいうと思ったが、だんだん訊くと、大牟田にある三井の染料工場から「劇薬」をシャくうのに使うとかで、別誂えの註文だったという。――

「ウンととってやればよかった?」

「そうも不可ンたい、相場があるけンな」

軒の名札に、勲八等鷲尾某と書いてある父親は「日露戦争」の生残りだが、不自由に胡座をかいている左の足は、弾丸の破片でやられた痕が、二本の指を失くして紫色に光っていた。