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しゅっけとそのでし
出家とその弟子
倉田 百三
「生命の川 第一巻第二号~第二巻第二号」1916(大正5)年11月16日~1917(大正6)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,812 字 · 248 页
お兼 それは吉助も悪いには悪いけれど、そうなるのもよっぽど困るからのことですわ。
左衛門 困ると言えば宅だって困ってるではないか。こっちに移って来てからというもの、不運つづきで、少しばかりの貯えで買った田地は大水で流れるし、松若は病気をするし、なかなか楽な渡世ではないよ。優しくしていればきりがつかないのだ。吉助ばかりではない。この辺の百姓は皆そうだ。わしは時々自暴になるような気がするよ。世の中の人間が皆きらいになるよ。
お兼 でもこのお正月だけは無事に祝わせておやりなさいな。あまり手荒な事をして恨みを結んだりしては寝ざめがよくないわ。人にたたかれたのでは寝られるが、人をたたいたのでは寝られないと言うではありませんか。(間)まあ御飯をおあがりあそばせ。(裏口より退場)
左衛門 松若、お前はさっきから何を見てるのだい。
松若 かあ様の絵の本だよ。仏壇の卓にあったのだ。たくさん絵があるよ。御殿やお寺の絵もあるし、鬼が火の車をひいている絵もあるし、それから……
左衛門 はあ。あの「地獄極楽のしるべ」か。
松若 地獄極楽って私知ってるよ。善いことをしたものは死んで極楽に行くし、悪い事をしたものは地獄に行くのだろう。