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しゅっけとそのでし

出家とその弟子

倉田 百三

「生命の川 第一巻第二号~第二巻第二号」1916(大正5)年11月16日~1917(大正6)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,812 字 · 248 页

青空文庫

とうとう綱を握った。もう明るい陸のきわまでひきあげられた。そこに幸福と希望とが目の前に見えて来た。その時急にその綱を断ち切ってしまう――おお。そんな残酷な事が私にできるものか。そんなことをするのが仏様のみ心にかなうものか。そんな事は考えられない。私はできない。(熱に浮かされたようになる)あの女とともに生きたい。どこまでも、いつまでも。

僧二 寺はどうなってもいい。法はどうなってもいいのですか。

僧三 若いお弟子たちはつまずいても。

唯円 あゝ、ではわからなくなる。(身をもだえる)

僧二 あなたは二つの中から選ばなくてはならない。恋かあるいは法か――

唯円 不調和だ。どうしても不合理だ。恋を捨てなくては、法が立たないというのは無理だ。どちらもできなくては――

僧三 なんという虫のいい事だろう。

僧二 あなたは女郎と仏様とに兼ね事える気なのですか。私はあきれてしまう。恥を知りなさい。

僧一 (しずかに)そんなに荒々しくしてはいけません。落ちつきなされ。唯円どの。あなたはさぞ苦しいでしょう。けれどその苦しいのは当座の事です。日がたつにつれていつのまにやらあわくなります。