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しゅっけとそのでし

出家とその弟子

倉田 百三

「生命の川 第一巻第二号~第二巻第二号」1916(大正5)年11月16日~1917(大正6)年3月5日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 121,812 字 · 248 页

青空文庫

唯円 善いものでなくては助からぬという聖道の教えとはなんという相違でございましょう。

親鸞 他人はともあれ、私のようなものはそれでは助かる見込みはつかないのだ。私は今でも忘れ得ぬが、六角堂に夜参りして山へ帰る道で一人の女に出会ってね。寒空に月が凍りつくように光っている夜だったよ。私を山へ連れて登ってくれというのだ。私は比叡山は女人禁制で女は連れて登るわけに行かないと断わったのだ。すると私の衣の袖にすがって泣くのだ。私も修行して助けられたいからぜひ山へ連れて行って出家にしてくれと一生懸命に哀願するのだ。いくら言っても聞き入れないのだ。はては女は助からなくてもよいのですかと恨むのだ。私は実に困った。山の上では女は罪深くして三世の諸仏も見捨てたもうということになっているのだ。しかたがないから私はそのとおりを言ってあきらめさせようとした。すると女は見る見るまっさおな顔をした。やがて胸をたたいて仏を呪う言葉を続発した。それから一目散に走って逃げてしまった。

唯円 まあかわいそうな事をなさいましたね。

親鸞 でも山の上へは連れて行けなかったのだ。あらしで森ははげしく鳴っている。