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なんぼく
南北
横光 利一
「人間」1921(大正10)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,591 字 · 40 页
とお霜は云った。
「和尚さん呼んで来うまいか。」とお留は云った。
「それよか何より棺桶や。棺桶どうする?」と秋三は云い出した。
「うちのお父つぁんの死んだときは棺桶やったが、あれでもお前、八円したぞな。」とお霜は云った。
「六分板やろが。あれならその位かかるわさ。杉の四分板やったら五円位で出来るやろ。」とお留は云った。
「大分苦しみよったらしいな。」
勘次は安次の紫色に変っている指さきを弄びながらそう云うと、
「苦しかったやろまいか。可哀想に、水いっぱい飲ましてくれる者がありゃせんしさ。」とお留が云った。
「やっぱり極道すると、碌な死にざま出来やせんなア。」とお霜は云った。
「棺桶どうする。」と秋三はまた云い出した。
「箱棺で好かろが。あれなら三円位で出来るしな。」
「寝棺はどうや、もっと安かろが?」
「寝棺は高い高い。どんねに安うても十両はかかる。」
「そうか。そんなら箱棺の口や。どうや伯母やん。ひとつ奮発してくれんか?」
「伯母やん。伯母やんって、損のいくことやったら、何んでもわしににじりつけるのやな。わしとこはもう、蒲団出したやないか。お前とこしてやれ。」
「そうかて、本当に勘が何もかも引き受けよったんやないか。