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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

在线阅读直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日语阅读。JLPT N2,点词查义。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 页

青空文庫

と、云って、山田一郎右衛門は、立上った。白無垢の着物に、白の麻上下をつけ、左手に、愛蔵の鎧通を握っていた。

一郎右衛門が、人々の間を歩き出すと同時に、襖が開いて、次の間が見えた。金屏風を立て、畳を二畳裏返した上に、蒲団を敷き、その上に、舶来の毛氈と、その上を蓋うて白布とが敷かれてあった。

一郎右衛門が、その上に坐ると、人々は、上席の人から、立上って、次々に、その部屋へ入って、一郎右衛門の座の三方へ坐った。入りきらない人々は、次の間だの、廊下だのへ坐って、心もち、顔を蒼くしながら

(ああして物を云っている人が、今少しの後に死ぬ。そんなことがあろうか)

と、いうような――必ず来る運命ではあるが、来るまで感じることのできない――何かしら、不安なものに心の底を痛くしながら、ただ、不思議な、苛立たしさと、少しの腹立たしさとを感じるだけで、何んの悲しみもなく、じっと、一郎右衛門を、見守っていた。

一郎右衛門は、静かに、立昇る香の煙が、天井へまでも、消えないで、昇って行くのを、じっと、眺めていたが、机の上の短冊をとって、歌を書きつけた。そして

「辞世」

と、云った。