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なんがさんだい

南画三題

中谷 宇吉郎

白端溪硯「東京新聞」1956(昭和31)年6月23日<br>墨と硯と雪と「週刊サンケイ 1巻12号」サンケイ出版、1952(昭和27)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,372 字 · 11 页

青空文庫

P教授は到頭我慢し切れなくなって、最近の会心の作の前で、「この絵は如何でしょう」と聞いてみた。それでも安井さんは「さあねえ」としか言わない。

結局最後に、P教授は「この中ではどれが比較的いいでしょうかね」と折れて出た。そしたら安井さんが「あれと、あれが一寸面白いね」と指さされた。ところがその二枚とも、三十年前の作品だった。そこでP教授は、「僕は三十年間、下手になるべく努力して来たのか」と嘆いたそうである。

まあこういう例もあることだから、なるべく上手にはならないことにしている。そうかと言って、あまり下手でも、家に絵ばかりたまって困る。それで思い付いたのは、古来の南画家がかつて描いたことのない絵を描いてみようという創見である。それならば、比較を絶した作品が出来るわけである。

その一例が、此処に出した絵である。中世の物理の教科書の南画というものは、恐らくどなたも御覧になったことがなかろう。機械はウイムスハルストの感応起電機と、ダルソンバールの検流計である。科学博物館へでも行かないと、一寸見られない。それに微分方程式もあれば、飽和曲線のグラフもある。たいていの人は御存じないから、それを説明する楽しみもある。