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なんがさんだい

南画三題

中谷 宇吉郎

白端溪硯「東京新聞」1956(昭和31)年6月23日<br>墨と硯と雪と「週刊サンケイ 1巻12号」サンケイ出版、1952(昭和27)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,372 字 · 11 页

青空文庫

白端溪硯

しかし嬉しいには、たしかに嬉しかった。それで秘蔵の白端溪と、一番大事にしている嘉慶の名墨とをもち出して、早速一枚描き上げた。それを送ったところが、きわめて丁重な礼状が届いた。話は全く逆であるが、これも芸術の余徳である。しかしこういうことは、そう滅多にある話ではない。

白端溪硯

矢野薫という満州の大親分からもらい受けた。北大に低温実験室を作ることになった時、茅誠司君と旅順の低温室を参考に見に行った。仕事の合間、満鉄の高野氏の家で一日絵を描いて遊んだことがあり、そこにちょうど来合わせていたのが、矢野氏で、われわれのように一日絵を描いて遊ぶ人のあることを今まで知らなかったと、この硯のいわく因縁の話をして私にくれる約束をしたのである。話によると矢野氏が東辺道匪賊討伐に協力したお礼に時の満州政府からもらい受けたものであった。たった一日の交遊の見ず知らずの私に貴重な硯をくれる約束も冗談だろうくらいに思っていたら矢野氏の死後遺言で約束どおりになったのである。

矢野氏から貰い受けた白端溪硯の図

端溪でも白いのは尊重されるものである。事実非常にいいもので使い心地は申し分のない気持のいいものである。