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わし

和紙

東野辺 薫

「東北文學」1943(昭和18)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页

青空文庫

「兄ちゃ、それほんとかや。」

「俺、今日ちゃんと会って来たで。」

「ど、どこの女子だべ?」

急いで喋ろうとする友太の話は、ところどころ前後したり吃ったりした。

「お父さ達に黙ってたのは俺があやまる。したげんと、何てたって惣達はお互いに好き合ってるでなん。」

ほんとかや、ちっとも知らなかったでなあと、やがて母は少し嗄れたこえで呟いた。

「兄ちゃにばかり心配させてなや。惣の奴ったら、なんつ奴だかま……。」

「お母さ、俺の心配なんど問題でねえでなん。何てたって惣は戦地だし……そらァお父さにもお母さにも文句はあるべが、こうなってからははァ、何とかきまりをつけねなんねで。」

「んでもな……。」

その時まで黙っていた父が、ふっと妙に冷たい笑いを見せた。その歪めた口辺を掠めた影は、思わず友太の背すじを悚然と撫でたほど気味悪かった。

「んでもな……お母ァと友の前だがな、はははは、俺のな、俺のしくじりを惣の野郎がまたやるとなったらどうしたもんだ? や? 俺の失敗をよ。」

「そ、そうだこと今更言って!」

父にではない、また父と自分を捨てた母にというのでもなかった。ただ、綺麗に葬り去ったつもりでいるいまいましい過去を、いきなり目の前につかみ出された不快さに、友太はかっとした怒りに駆られた。