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わし
和紙
東野辺 薫
「東北文學」1943(昭和18)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页
「んだこと言うんなら、どうでもお父さの好きにしろや、んだこと言うんなら!」
兄ちゃってば、兄ちゃってばと、母は吃りながらおろおろした。
「お父さが悪いで、今さ頃そうだこと言い出してどうすんだべま。惣の話は惣の話でねえべかや。今さ頃、そ、そうだ、とんでもねえ……。」
んだで、んだでと、忽ち憑きものから醒めたうつろな哀しさにかえった眼で、父の惣次郎は頭を振りながら、ぶるぶるとふるえる手に煙管をとり上げた。
「友、機嫌なおしてくんろ。……んだども、惣の話は別だでな。いいおなごだべ、いいおなごに違えねえ。お母ァとよく相談してやってくんろ。な、友、機嫌なおしてくんろ。」
友太はぼろぼろ涙をこぼした。こうした感情のあらしに、一度は遭わねばならないかも知れないという予感を、それとは捕え得ずに、心のどこかにひそめていた自分に友太はこの時はじめて気づいた。やはりそうだった。親子が一度このあらしの洗礼を受けないでは、納まるはずがなかったのだ。
――祖父の代からの日傭取で辛うじて暮していた父の兄が感冒をこじらせての肺炎で、無論医者にもかからなかったが、床についてから三日目に、うわ言を口ばしりながらあっけなく死んでしまうと、しきりに咳き入るままに働いていたのを目撃した村の人達は、惣太郎さは肺病で死んだと言いふらしたものである。