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わし
和紙
東野辺 薫
「東北文學」1943(昭和18)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,557 字 · 70 页
何でも正月前には来るらしいの。」
村の正月は、あと十日とちょっとに迫っていた。もっとも、こんな大戦争になったからには、盆も正月も言ってはいられないと、つい二三日前にも役場からその達示が廻ってきている。
小屋は、田圃わきの流れを堰き止めた、せいぜい一坪ぐらいの池の上に、萱の屋根を葺き出して三方を藁で囲ってある。水の上まで突き出た床板に藁束を敷きつめた座席には、いつからのものかわからない、綿のはみ出たぼろ座布団が敷いてあることもある。こうした小屋が村の低地に点点としてあるのだった。ソーダ灰で煮上げた白楮の、まだこの時まで残っていたりする粗皮や固い筋を、鎌の尖で取り除きながら洗い灑いで灰汁を抜くので、村では「楮さらし」と言っていた。暖い日はいいとして、安達太郎山颪の吹き荒ぶ日の楮さらしは、時に、漉き手よりも辛い作業になるのであった。東南の村境を阿武隈川が流れている。大川の流れに灑ぐ楮はことに灰汁抜けがいいとされて、ここの岸に十数軒共同のさらし場があるのだが、川面を渡ってまともに吹きつける寒風はたまらないものであった。それから見ると、射す陽を一杯に孕む高い土堤をうしろにした、よしとユミの家の共同小屋はまだ楽な方の仕事場だった。