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よねんかん

四年間

山本 周五郎

「新青年」博文館、1946(昭和21)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,135 字 · 36 页

青空文庫

「大腿部から切断するようにと云われたとき、そうすべきだったですね、現在では、……お気の毒ですが、療法はないと申し上げるほかはありません」

信三は微笑しようとした、しかしそれはできなかった。彼は短くなった煙草を灰皿へ捨て、できるだけおちつこうとして深く呼吸した。

「それで、あなたのお考えでは、あとどのくらい仕事ができるとお思いですか」

「その質問は医者にとって一種の拷問ですね」

「だがいま云ったとおり知らなくてはならないんです、どうしても、……科学者同士としてだいたいの推定を聞かせてください」

「お仕事の性質にもよりますが」

「実験のほうです、病理組織学のある課題について研究をやっているんです」

ああそれで医学雑誌など読んでいるのか、医者はそう云いたげにうなずいた。だが依然として信三の問いに答えることは苦痛だとみえ、かなりながいこと黙って下を見ていた。

「こういう推定は危険なんですが」と、やがて医者はひじょうな努力を要するもののように、重苦しい呟やき声で云った、

「だいたい四年くらいと申し上げてよいでしょう」

「……四年」信三はかわいたような声で反問した。

「そうです、それより短くも、長くもないと思います」