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よつや、あかさか

四谷、赤坂

宮島 資夫

「東京日日新聞」1927(昭和2)年10月4日~9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,947 字 · 18 页

青空文庫

横丁ずくし

従って盆と正月に、太宗寺の閻魔様の縁日のあるほかは、新宿は全く用事のない場所であった。

太宗寺の閻魔様は、その体格の偉大な点において、東京でも有名である。盆と正月の十六日には、閻魔堂の格子が開いて、がらんとした暗い堂の正面に、朱顔に金の眼を光らせ、赤い口をかっと開いて、笏を持っていきり立った閻魔大王の姿を、しみ/″\と眺める事が出来るのだ。そのかたわらには、しょうつかの婆が、白髪頭に黒い口で、意地の悪い眼を光らせて片膝を立てている。線香の煙がもう/\とあたりをこめ、威嚇的な鐘の音が、かん、かんと鳴り通した。

『嘘をつくと舌を抜かれる』と聞かされていた、その恐ろしい閻魔の顔が、どういうものか見たくって、私はいつも堂のそとからそうっと覗いた。

太宗寺へ来る新宿の町の両側には、のれんを掛けた、風呂屋のような暗い家が沢山あった。時には赤い裏のきたない布団が、二階の欄干にほしてあった。一緒に行った姉に訊いても、汚い家だといって教えてはくれなかった。

横丁ずくし

殊に年少の私に不思議な感じを与えたのは、それ等の家の中でも土蔵造りになっている二階の壁には、那須の与一が弓を引いているところとか、或いは竹に虎とか、浪に朝日とか、まるで凧の絵みたいな漆喰細工の飾り絵がしてある事だった。