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じごくのししゃ

地獄の使者

海野 十三

「自警」1947(昭和22)年1月~1948(昭和23)年1月(5、6、11月は欠)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,419 字 · 152 页

青空文庫

よう、これは長谷戸さん。今のわしの長談義を、君もちゃんと覚えていて下さいよ。……それで、御本尊はどこに鎮座ましますのかな。ああ、あれか。わしより若いくせに、早やこの世におさらばの淡泊なのが羨しいね」

古堀老博士は、例のとおりに喋り散らしながら、携げて来た大きな鞄を、被害者が占領している安楽椅子の右側に一度そっと置いて、それから錠前をはずして大きく左右へ開いた。鑑識用の七つ道具がずらりと店をひろげた恰好だった。

検事一行や大寺警部たちが、老博士の機嫌をこれ以上悪くしない程度の距離をもって、大きく円陣をつくって取巻いた。

古堀博士は、ゴムの手袋を出してはめ、眼鏡をかけかえると、前屈みになって死人の顔に自分の顔を寄せた。それから手を伸ばして死体の瞼を開き、それからだらりと垂れている左腕を死人の服の上から掴んでみた。それがすむと、いよいよ自分の顔を死人に近づけて、鼻の上に皺をよせた。そのあとで立ち上った。椅子のうしろをぐるっと大まわりをして、死体の向う側、つまり死体の左側へ出た。そこで彼は始めて被害者の頸のうしろに於ける銃創を眺めたのであった。

古堀裁判医は、小首をかしげた。